【ちうさんぽ】FCふじざくら山梨を密着した

元なでしこリーガーの伊藤千梅がFCふじざくら山梨の1日に密着。
彼女が自由に歩を進め、気になった人に声をかけ、FCふじざくら山梨の魅力を感じてもらった。
今回は、マッチレポートとは一線を画す自らの視点で描いた「ちうさんぽ」をご覧ください。
文章:伊藤千梅より

FCふじざくら山梨の選手たちを思い浮かべるとき、出てくるのは試合中の真剣な表情。

普段、みんなはどんな表情をしているのだろう。
そんなことを思いながらバスに揺られていると、気がついたら山梨に到着していた。

久しぶりに訪れたクラブハウスは少しばかり気まずい。

最初の1人がグラウンドに出た時点で、自分も選手の間をソッと抜け出した。
練習前にも関わらず、お話に付き合ってくれたのは11.りくさん(中塚理加)。念入りに体を動かす隣にしゃがみ込む。

お喋り怪獣さんの話しは止まらない。
知識量が豊富で、未来まで見据えたその話は聞き手を飽きさせず、私には居場所も与えてくれた。

練習前の円陣にお邪魔させてもらうと、どこからか「練習生の参加ですっ」と声があがり、慌てて首を振った。
もう走れない…!と思いながらも、皆さんの笑顔にホッとする。

和やかな良い雰囲気でアップが始まった。
締めるところは締めつつ、とりかごでは楽しそうな声が響く。菅野さんが選手にまた抜きをして、得意そうな顔をした。

練習後に7.あさみさん(工藤麻未)の横に並ぶと、真っ直ぐな目線が私を貫いた。
話していると、チームに対しての自分の行動を常に考えていることが伝わる。

誰よりも菅野さんのサッカーを理解し、皆に伝えようとするその姿から、この方がFCふじざくら山梨の心臓なのだと、改めて感じた。

1.ミノさん(mino)と9.ななさん(金井奈苗)がニコニコしながら歩き出したので、私もそれについて歩く。お2人に、歳の差からくる圧は全く感じない。

“走りはきついけど、すごく楽しいチームだよ”
おちゃらけながら、私が質問をしやすい空気を常に作り続けてくれるお2人に、初めてとは思えない安心感を抱いた。

プロジェクトのミーティングを終えた3.さゆりさん(松岡沙由理)が、ソファーにおいでと手招きしてくれた。
試合の時の鋭い目からは、想像がつかない優しい笑顔に、さりげなく緊張していた心が解ける。

まとめ役はあまり経験したことがない中での、1年目でキャプテンという立場に、最初は戸惑ったという。
それでも、チームに対し自分なりに働きかけているさゆりさんがキャプテンになったことは、必ずこのチームでプラスになると確信した。

自分のことで精一杯だった私自身の過去と、今目の前で、広い視野からチームを捉える先輩たちを重ねてみる。

皆さんの横顔を見つめながら、現役時代私はこんな風にベテラン選手の想いを聞いたことはあっただろうかと考えた。

わがままを言って、同年代をご飯に誘った。「やぶ」という定食屋さんに行くと、FCふじざくら山梨のポスターが貼ってある。
量が多いよと言われていたものの、いけるだろうと冷やし中華セットを頼むと、胃袋がパンパンになった。隣で選手が同じメニューをぺろりとたいらげていた。

ピッチではサッカーについて話し合っている22歳たちが、ラーメンの話で盛り上がり、大人っぽいと思っていた後輩の可愛い一面も見ることが出来た。

窓から、夜の富士山が藍色の空に紛れて見える。サッカー女子と書かれた手書きの伝票。
「次の試合はいつなの」と店員さんに尋ねられ、頑張ってねと言われてお店を後にした。

山梨で夜を明かしグラウンドに着くと、朝から故障中の選手が体を動かし始める。

グラウンドを横目に1人歩いていると、監督の菅野さんが椅子を進めてくれたので、隣に座らせてもらった。

これまでの経験や、考え方を聞いていく中でこぼれ出た
“無意識で、みんな一緒と思っている”
という言葉が、これまで見て、聞いてきた菅野さんの言動にピタリとハマる。

監督の立場からは薄っぺらくなりがちな”みんな”という言葉が、私の心にスッと入ってきて
この人の元でサッカーをしたらどんな景色が見えるのだろうと想像してしまった。

練習試合の後には、関西弁が飛び交い、ムードメーカーが多すぎて、ボケの渋滞が起こる。笑い声の中には菅野さんの姿もあった。

“みんなが一つになる”
菅野さんのいうこの言葉。
目指したい、まだ足りていない。ありきたりなようで、難しい。

それでも、このチームであればそうなれるという想いは、決して私の勘違いではないように思う。

道の駅で美味しいクッキーを見つけた私は
クラブハウスで、通りかかる選手につい勧めてしまう。
何人かがクッキーに手を伸ばし、美味しいと目を丸くしてくれた。

たった2日間だけれども、試合の時には見えない姿や表情に、もっとこのチームを応援したいという想いは強くなる。

チームが一つになった時。
その時はきっと、選手やスタッフに留まらずスポンサーさんやサポーターまで巻き込んだチームになる。

そんな事を感じ、そこに自分も加わりたいなと密かに思いながら、帰りのバスに乗り込んだ。