【ちうめせんVol.4】第4節 VS 山梨学院大学レッドサンダーズ戦マッチレポート

元なでしこリーガーの伊藤千梅が自らの視点で描くマッチレポート「ちうめせん」。
山梨県女子サッカー1部リーグ第4節の山梨学院大学レッドサンダーズ戦のマッチレポートを描きました。
文章:伊藤千梅より


午前キックオフ試合の、朝は早い。
少しだけ重たい目のままサポーターと話していると、「試合の日は出来るだけサッカーを感じていたいから、開場前に着いてスタンバイする」と言われ、その言葉だけでなんだか目が覚めた。

梅雨の富士山は雲に隠れても、水色のユニフォームに身を包んだサポーターは空を映し出す。

今日のMTGも、菅野さんの少しゆっくりめな声が聞こえる。

“チームのスタイルを貫くと、最終ラインのミスは起こり得ること。それは責めない。しかし、どれだけそれをミスではなくするのか”

“責任と技術が求められる。ビルドアップを避けて通るのではなく、出来るようにしていくこと”

責任のないプレー、挑戦しないプレー。
菅野さんの厳しさには、一貫した理由がある。

300人を越える観客を前に、今行われているのはなでしこリーグかと錯覚した。

立ち上がり、監督の言葉通り後ろからビルドアップをするDFライン。
シュートで終わる場面が多いことから、比較的うまく組み立てられていることがわかる。

“正面の姿が見たいけど、前半は背中が見えた方が良いか…”とどこからかぼやく声が聞こえた。

14.南條選手がゴールネット左隅へ突き刺した一点目。サポーターからの拍手は、いつもより人の手が多いため、響く音が大きい。

相手の攻撃時、背後をとられピンチに陥る。
シュートを打たれる瞬間に、キャプテン3.松岡選手がスライディングでブロックをした。
相手はオフサイドだったため、どちらにせよ結果に結びつくシーンではない。けれど、印象に残った場面として、最後まで体を投げ出す姿勢をあげた人は少なくない。

給水時。あの選手はどこ高校出身…前所属は…と、マッチデーを手に話す応援席。引き締まった表情で表紙を飾った8.田中選手が目に入った。

いつにも増して上下を駆け回る16.辻野選手が、左サイドを突破する。
ハーフライン辺りからボールを運び、ゴールライン近くで中にえぐると中に優しいパスを出した。田中選手が左足ダイレクトで決め、2点目。

南條選手、辻野選手の両翼が競い合い、ゴールに繋がるプレーを次々魅せてくれるのは、このふじざくらの見所のひとつだとサポーターさんが教えてくれた。

普段と比べると僅差の試合であることから、後半から出場の11.中塚選手含め、ゴールラインまで戻ってしっかりと体をはる場面が多い。
普段センターFWとして前にはる10.清水選手が、DFのカバーをしている姿は新鮮に映った。

コーナーキック時は、毎回必ずフラック付近から手拍子が始まり、ゴール裏全体へと広がる。選手がミスをして天を仰ぐ時、成功プレーではないにも関わらず、聞こえてくる拍手は一段と力強い。

試合終了時は、手を叩くその一回一回に想いを伝えるような拍手が沸き起こった。

ふじざくらのゴール裏は、いつも温かい。
菅野さんのサッカーが好きで、菅野さんの考え方を知っているサポーターさん方は、チームの狙いに対する挑戦を責めない。

技術は大切で、ミスをしないことも大切。もちろん勝負にも拘る。
それでもなにより、責任をもち、挑戦すること。観ている人たちも、1番大切な部分を選手のプレーから感じているからこそ、応援する。

「出来たばかりのチームだからこそ、成長を一緒に感じていける」
まだ大きなスタジアムではない県リーグのグラウンドは、10m先はライン。選手たちの息遣いまで聞こえるような距離から、次節もサポーターは熱い拍手を送るのだろう。