【ちうめせんVol.5】第5節 VS 日本航空高校戦マッチレポート

元なでしこリーガーの伊藤千梅が自らの視点で描くマッチレポート「ちうめせん」。
山梨県女子サッカー1部リーグ第5節の日本航空高校戦のマッチレポートを描きました。
文章:伊藤千梅より

ここ最近で久しぶりに感じた日差しが、グラウンドを突き刺す。
細めた目を少し開いて辺りを見渡すと、見慣れない景色の中で、今日も見慣れたサポーターさんの顔が並んでいた。
「またこんな遠いところまで足を運んで下さったのか」普段通り。けれど決して当たり前ではない光景は、自然とその日の活力になる。落ちた汗が、熱をもった人工芝に染み込んだ。

受けて立つな。自分たちから行け。そう言われて入った立ち上がり。

前からハメにいった中盤の選手がキーパーまでかけると、5人ほどの選手が一斉に連動した。
「自分がかけたら、後ろは必ずついてきてくれる。その信頼関係があるからこそ、中盤から前に飛び出す事ができる。」

ベンチの前から右サイドを駆け抜けると、キーパーのキックをブロックする。
「菅野さんのサッカーを、もっと体現したい。走る。戦う。その上での美しいサッカー。菅野さんのサッカーは、苦しいことの方が多い。…それでも魅せたい。」

ただ座っているだけで、身体中が汗でベタつく。給水のために用意されたボトルからは、氷が重なり合う音がしていた。

後半。足が止まる。足がもつれる。体は思うように動かない。
そんなピッチの選手たちを叱咤し、盛り上げるように、ベンチからは声が飛んだ。「自分たちだけが楽しいだけでなく、みている人に楽しんでもらいたい。そのために、どんな状況でも、どんな立場でも、目の前の試合に勝つための行動をする。(11.中塚)」観客席から見える背中はピンと伸びていた。

「選手をやっている限り、試合に出たいと思うのは当たり前。だからこそ。試合に出ている限り、その気持ちを背負って戦う。戦う義務がある。(9.金井)」
「チームのために動く」
味方のファーストDFが間に合わないのであれば、相手を2度追いする。その姿につられ、周りも必死にボールに喰らい付く。

試合が停滞する。「感謝を表したい人がいる。応援してくれる家族に、プレーしている姿を見せたい。(8.田中)」相手も味方も、足が止まりかけた状況で、最初に動き出す。誰よりも速い切り替えが皆の足を動かす。

相手の攻撃には、DF陣が力強い守備で身体を張る。
「目の前の相手に、負けたくない。(3.松岡)」ボールを取り切ると、正確なロングパスで攻撃の起点となった。

そこから後半4回の目立ったカウンター。この時間でも、爆発的な加速力から相手を置き去りにし、ボールを運ぶとチャンスを作る。
「ボールはこなくとも、その全てに走り込む。何度無駄走りになっても、その一回でチャンスになる可能性があるのならば。疲れたかどうかは二の次。そこにいることが、求められること。

後半の後半。足が進まない。吐く息は熱い。
ゴールを目指す先には、横断幕。試合前に焼き付けたその光景が、最後の一歩を踏み出させる。
試合終了のホイッスルと共に、多くの選手が膝に手をついた。


力を使い切った選手たちが日陰に集まると、菅野さんからは手厳しい言葉が並んだ。
“自分たちが目指している場所はどこだ?”
問いかけに浮かぶのは、去年の景色。もう2度と、同じ光景を見たくはない。

“この夏、どれだけ成長できるか”
誰もが全力を出し切ったこの瞬間から、監督は更なる成長へと目を向ける。
悔しい。苦しい。それでも、わかっている。菅野さんがいる場所は、自分たちがいる場所は、ここではない。満足はしない。全身汗で濡れた体で意識が飛びそう中、必死に歯を食いしばった。

感謝を伝える。喜んでもらいたい。楽しいから。自分のためにも。応援してくれる人のためにも。
勝って、最後全員で笑うために。「期待と共に戦う」
眩しい日差しに目を見開き、この夏を越えるために走り出した。

例え、これから先大きなスタジアムで試合をしても。観客席からグラウンドが遠くなったとしても。この県リーグという舞台から応援し続けてくれた人たちの言葉は、拍手は、声援は。選手たちの心に生き続けるのだろう。