【ちうめせん】最終節 VS 山梨学院大学レッドサンダーズ戦マッチレポート


元なでしこリーガーの伊藤千梅が自らの視点で描くマッチレポート「ちうめせん」
山梨県女子サッカー1部リーグ最終節の山梨学院大学レッドサンダーズ戦のマッチレポートを描きました。
文章:伊藤千梅より


「結果が全てではないというけれど、私たちは結果でみせないといけない。」

試合後の熱気がまだ残っているかのようなグラウンドに、優勝を決めた選手たちが一列に並ぶ。分厚い雲から覗く日差しが、皆の前に立つキャプテン田中里穂を映し出した。

県リーグ全勝優勝。
まさにその瞬間にも、彼女の中で3ヶ月前の結果を胸に留めたまま言葉を選んでいるのがわかる。
その姿に、必死に抑えても抑えきれない感情を滲ませた表情を思い出した。


SNSで流れてくる情報に目を疑った9月の後半。皇后杯を勝ち上がったすぐ直後の話なだけに実感がわかない。

…今、みんなはどんな顔をしているのだろうか。
画面上にはポツポツと敗戦報告や謝罪の言葉が並んでいく。
現実を理解しきれず、どこか遠い世界の出来事のように選手たちの胸の内を推し量ることができない自分がいた。

その翌日。小雨が降るWEリーグの試合会場で田中里穂と遭遇した。

かける言葉を探して、本当におつかれさまと伝えると、彼女の中で抑えきれない感情が溢れ出そうになった。何気ない一言で、心が崩壊しそうになる。
大丈夫も、元気出しても、違う。
今この場に適切な言葉が浮かばない。

…今、選手たちはこんな表情で堪えている。

それでも必死に笑顔を作る彼女をみて、”負けた”という事実をやっと実感した。


あれから3ヶ月。
プレー中の選手たちに、迷いは見られない。

裏への抜け出しからチャンスを作った得点も、バックラインからのポゼッションも。前からのプレスも、キーパーの声かけも。
やっぱり上手いな。強いな。
そう思わせてくれる快勝で県リーグは幕を閉じた。


すぐには切り替えられない現実がある中、それでも目の前の結果を出していかなければならない。そんな状況でも、勝ち続けた後期。
大量得点の試合も、ギリギリ勝ち切った試合も、一つも落とさず結果を出し続けた。

チームとして必死に前を向いて勝ち取ったこのリーグ戦全勝優勝は、おそらく選手たち自身が感じているよりも難しい。

県リーグ優勝、おめでとうございます。
心からそう伝える言葉が、どうか真っ直ぐ届きますようにと願う。

グラウンドから離れ、ユニフォームを着替え終えた田中里穂に声をかけた。
プレー中は堂々としている彼女に、3ヶ月前のあの日から心境がどう変化したかを問いかける。

「結果は変えられないのもわかっている。チームとしては次に向かえている。」

「でも個人としては、どこかずっと引っかかっている」

表情は明るい。下を向いてはいない。
決して立ち止まっているわけではない。
後悔とはまた違った、葛藤。
これから変えられるものを、後悔なく創り出していくために、変えられないものを見つめる強さ。

「結果が全てではないというけれど、私たちは結果でみせないといけない。」
みんなの前で語ったその言葉は、重たい。

一人一人違った背景がある中で
なぜ選手たちは今、”県リーグ”のチームに所属しているのか。

悔しい想いをしたことがない選手など、1人もいない。
だから、ここで立ち止まる選手はいない。
ここで満足する選手もいない。

選手からその言葉が出るのであれば、私は結果に対しても真っ直ぐに応援したいと思う。

格上の相手に走り勝つ、ふじざくらの選手たちがみたい。
一つでも上のリーグでプレーするふじざくらの選手たちがみたい。

あえて、そう伝えることが、選手たちの力になりますように。

…富士山の頂に、辿り着くその日まで。

戦い続けるこのチームを
私は見つめ続けたい。