【ちうめせんVol.2】第2節 VS 山梨大学戦マッチレポート

元なでしこリーガーの伊藤千梅が自らの視点で描くマッチレポート「ちうめせん」。
山梨県女子サッカー1部リーグ第2節の山梨大学戦のマッチレポートを描いてくれました。
文章:伊藤千梅より


「選手である以上は、自分が試合に出たい」
そんな現役時代の想いを残したまま、今日も私は山梨の地に降り立った。

チームがアップを始める中、1人淡々とチームの準備をする選手がいた。
動いている選手たちから、ウェアを受け取る。

怪我によりまだボールを蹴れない19.広沢実佳子選手は、ボール拾いをしながら、思わず、何もないところで足を振った。

自分がその立場だったらと考えると、なぜかそこから、目が離せない。

彼女は三脚を持って高台に上がると、ビデオを設置する。録画ボタンを押すと同時に、試合が始まった。


立ち上がり。
ファーストシュートを惜しくも止められると、その後立て続けに相手キーパーの好セーブにゴールを阻まれる。

その流れを断ち切る1得点目は左サイド16.辻野友実子選手の高く弧を描くクロスに、17.井原美波選手が反対サイドで滑り込みながら合わせた。

普段、冷静な判断と数少ないタッチで試合を作り上げる井原選手。そんな選手がゴールへと突っ込む姿が、試合を勢いづける。


ふと、ビデオを撮る高台に目を向ける。

同じ新加入選手の活躍は、嬉しくもあり、羨ましい。
そんな想いが胸の奥に流れるが、この距離から表情は見えない。再びピッチへと意識を戻した。

このチームの攻撃は、DFから始まっている。
3.松岡沙由理選手が、中盤とのワンツーで攻撃を底から開始し、センターバックながら得点のチャンスを作る。

その時、5.高山紗希選手が後ろでバランスをとり、立ち位置を調整。
8.田中里穂選手などの中盤が下がり、サイドバックどちらかも中に絞ってカバーをする。

後ろが思い切り出るには周りのバランスが重要。
自分のポジションに固執しない、柔軟な対応があるからこそ、DFラインは爆発的な攻撃力を発揮できる。

1試合を通してダイレクトでのパスがよく繋がり、見ていて気持ちが良い。

井原選手は今回、常にボールに関わることを意識していたという。
実際、全員が適切な距離感を作り出している状態が続いた。

11得点目、ゴール前で4〜5人が関わり、6.杉村美星選手が決め切る。

今日のサッカーを象徴するような得点で、この試合は締め括られた。

画面を通して試合をみながら
ここにいたら何が出来るだろうかと、広沢選手は考えていた。

“自分だったら、今日の試合どんなプレーをする?”

試合後の、そんな質問に言葉が溢れる。

“クロスはもう少し低くて速いボールを入れてみたり、タイミングも早めると思う”

“サイドバックであっても、シュートの選択肢は常に持っていたい”

点取りたいんだよねと言いながら、広沢選手は笑顔を見せた。

広沢選手の言葉に、今日見た中での新たな記憶が引き出される。

昨年から前線のポストとしてプレーの幅を広げた10.清水千陽選手。
普段相手を背負っているが、相手の状況をみて綺麗に前を向いたことで生まれた、8得点目。

細かくパスを繋ぐことで、相手に囲まれ狭くなった時。
15.戎谷亜美選手の意表を突く、フワリと浮かせた逆サイドへの展開からの、9得点目。

どちらも、このチームの目指すサッカーの上に、らしさが出たプレーが、得点に繋がっていた。

短い距離でパスを繋ぐ、美しいサッカー。
それがFCふじざくら山梨のサッカーなのだと、今日の試合はそれを実感することができた。

サポーターとして、そのサッカーを期待し、追って行きたいと切に思う。

その上で
“あなたにしか出来ないプレー”

それをもっともっと知りたい。

今この時、ボールを蹴れない選手の存在が
このチームがさらに高みを目指す上での、新たな光になる。

ランシューで芝の上を歩くその姿に、このチームの未来を感じた。